2025年4月6日 くもり

路地の入口に佇む梧桐(ごどう)の木は、今も静かにその場所を守り続けている。陽だまりが石畳を優しく照らし、視線の先には、かつて慣れ親しんだ小さな町の風景が広がっている。

子どもの頃、日常だった通学路の足音や、すれ違う人々の会話。その全てが、かけがえのない青春の記憶となって心に残っている。あの頃の自分は、“大人になる”ことを自由の象徴のように捉え、夢と理想は手を伸ばせば届くものだと、信じて疑わなかった。

けれど、現実は想像していたほど甘くはなかった。

思い描いた未来にたどり着くには、努力だけでは届かないことがある。どれだけ全力で走っても、立ち止まらざるを得ない瞬間がある。そしていつしか、“普通でいること”さえも容易ではないことに気づかされる。

傷だらけになっても、誰にも言えず、ただ静かに笑ってやり過ごす。ふと鏡の中に映る自分を見て、“昔のように笑えているだろうか”と問いかけたくなる。かつて笑顔が自然だったあの自分は、どこに行ってしまったのだろうかと。

失望も、孤独も、すでに日常の一部になっているかもしれない。それでも、あなたは歩みを止めていない。傷を抱えながらも、目の前の生活を少しずつ積み重ねている。その姿は、誰よりも強く、美しい。

「これは、あなたが思い描いた“大人”ですか?」

きっと答えは簡単ではない。けれど、今のあなたがここまで来られたこと自体が、誇るべきことなのです。

“幸せ”は、決して大きな夢の中にだけあるものではない。静かな朝に目覚め、また今日も一日を始めることができる――それだけで、きっと十分に価値のあることなのです。