壁の隅に残るひび割れ
前の住人がぶつけた跡
ドアノブには淡い緑の錆び
回るたびに 古い夢が甦る
それはまるで 昔の歌のように
私を静かに招いている

夕暮れがカーテンの隙間から射し込む
古びた木の床 誰かが歩き続けた足跡
馴染んでいく香りが私を包み込む
今ここを離れるけれど
どうか私を忘れないでほしい

人生は旅の連続で
あまりに多くの過客が通り過ぎた
名前さえ覚えていないけれど
この場所だけは すべてを見届けてきた
住む人たちは荷物のように行き交い
ほんの一瞬だけ 心を残していく

一日だけの滞在でも 一生の記憶になる
運び出せるのは家具だけ
けれど 家そのものに刻まれた歴史は
次に住む人が また新たに書き加えていくだろう
新しかった家も いつかは古びていく

旧居でも 新居でも
安らげる場所ならそれでいい
時が流れても 拭いきれない影の跡
優雅に年を重ねる
もし壁に意識があるなら
移り変わる色や形を恐れないで
人は新しさを求めて 古いものを捨ててしまうけれど

ごめんなさい
どうしてもここを離れるしかなかった
去る人々は 汗と涙をこの場所に残し
その記憶は 壊されることはない
百年の歳月を越えて
もしかしたら前世でも ここで誰かと笑い合っていたかもしれない

一日だけの滞在でも 一生の記憶になる
運び出せるのは家具だけ
けれど 家そのものに刻まれた歴史は
次に住む人が また新たに書き加えていくだろう
この場所は すべての栄枯盛衰を見届けてきた

旧居でも 新居でも
安らげる場所ならそれでいい
時が流れても 拭いきれない影の跡
優雅に年を重ねる
もし壁に記憶があれば
移り変わる色や形を恐れないで
歴史そのものは 消えることがないから

過客たちは それぞれの安らぎを求め
ただ静かに眠れる場所がほしいだけ